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名古屋家庭裁判所一宮支部 昭和59年(少)3642号 決定 1984年7月11日

少年 Z・Z(昭四三・六・二六生)

主文

一  少年を中等少年院に戻して収容する。

二  昭和五九年少第三六四二号事件について、少年を保護処分に付さない。

理由

一  昭和五九年少ハ第一号事件について

(申請の理由)

別紙記載のとおり。

(当裁判所の判断)

本件事件記録及び当審判廷における少年の供述によれば、少年は、昭和五九年一月一〇日、中部更生保護委員会の決定により豊ケ岡農工学院を仮退院し、名古屋保護観察所の保護観察下に入つたものであること及び昭和五九年三月二三日以降の行状につき別紙申請の理由2に記載のとおりの事実を認めることができ(なお、同1の事実についてもこれを認めることができるけれども、右事実は昭和五九年少第一四一号窃盗保護事件として既に当庁において不処分の決定を受けていることが明らかなので考慮外とする。)、少年の右行状が仮退院決定時定められた特別遵守事項(母親の言うことを聞き、保護司の指導をよく受けるべきこと。)及び法定遵守事項(犯罪者予防更生法三四条二項一号後段及び四号)に違反するものであることは明らかである。

そして、本年五月二二日当裁判所が本件につき少年を在宅試験観察に付したところ、少年はその後も全く就労しないで徒遊生活を送つていたのみならず、右決定の直後から単車の無免許運転を繰返し、同年六月二〇日には原動機付自転車の無免許運転により検挙されるに至つたもので(本件の昭和五九年少第三六四二号事件)、少年の要保護性は極めて強く、このまま放置するときは非行ことに無免許運転を反覆する恐れが顕著であり、保護観察所及び保護者の指導監督によつてはこれを防止することができないと考えられる。したがつて、少年に対しては、その年齢及び非行性の程度も考慮して中等少年院に戻して収容し、そこでの教育訓練を通じて性格の矯正を図るのが相当である。

二  昭和五九年少第三六四二号事件について

少年については、交通事件原票(番号チ三五一七〇一)(2)ないし(5)に記載のとおりの非行事実が認められるが、一で示したとおり、昭和五九年少ハ第一号により戻し収容を相当とするので、本件につき重ねて保護処分をする必要は存しない。

三  よつて、昭和五九年少ハ第一号事件につき、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条により主文一のとおり、同年少第三六四二号事件につき主文二のとおり、それぞれ決定する。

(裁判官 三代川三千代)

別紙

申請の理由

少年は、当委員会第二部の決定により、昭和五九年一月一〇日、豊ケ岡農工学院を仮退院し、名古屋保護観察所に出頭のうえ、指定帰住地である愛知県一宮市○○町○○字○○×××番地の×(母)Aのもとに帰住、以後同庁の保護観察下にあるが、同年四月二四日名古屋保護観察所長において少年を同所に引致し、質問調査の上当委員会に戻し収容の申出があつたので、同日当委員会第一部委員○○○○において戻し収容申請のための審理開始決定を行い、留置期限を同年五月三日とし名古屋少年鑑別所に留置中のものである。

名古屋保護観察所長作成の戻し収容申出書及び関係記録により審理するに、

1 少年は、仮退院後、何回かの無断外泊、若干期間の職業実習等はあつたものの、一応は一宮市立○○中学校に通学したが、昭和五九年二月二九日、B、C及びDと共謀し、午前〇時ころ愛知県一宮市○○×丁目×番××号○○運輸駐車場において普通貨物自動車一台を、午前八時ころ、同市○○町○○×××番地先路上において普通乗用自動車一台をそれぞれ窃取し、上記Bと交互にこれらを無免許運転して○○警察署に逮捕され、名古屋少年鑑別所に送致された。

2 昭和五九年三月二三日、名古屋家庭裁判所一宮支部において、名古屋保護観察所保護観察官○○○○出席して審判の結果、不処分の決定を受け、少年は、同保護観察所において○○中学校長から卒業証書を援与された後、同所から名古屋市○○区大字○○××××-×××(更生保護会)財団法人立正園に委託保護されたが、その際の同保護観察官の説示及び同園職員、母等の指導に従わず、再三にわたり同園から無断で飛び出してEらと徒遊し、保護観察官らの厳重な訓戒にもかかわらず、同年四月八日以後は帰園せず、五日間友人宅に宿泊後は、母のもとに移動して、同月二四日引致されるまでの間、上記Eとともに友人と徒遊を重ねるなど、正当な理由なく無為徒食の生活を続け、また担当保護司を訪問せず、名古屋保護観察所長から呼出しを受けながら、これに応ずるようにとの度重なる母の説得にも従わず、もつて法定遵守事項第一号後段、第三号及び第四号並びに特別遵守事項第六号に違反する行為を重ねたものである。

少年は、豊ケ岡農工学院在院中の昭和五八年一一月一日帰省通学を許され、同月二日、同月一五日を釈放の日として当委員会の仮退院許可の決定を受けながら、帰省通学遵守事項を履行せず、同決定を取り消され、同院入院後満六月を経過してようやく仮退院したものであるが上記のとおり仮退院後二月を経ないうちに事件を惹き起こし、不処分決定、更生保護会委託保護等、処遇機関から生活改善の転機を与えられながら、全く反省するところなく、わがまま、気ままな行動をとり続け、いやなこと、つらいことはすぐに回避する傾向を改めず、ひたすら目先の享楽に明け暮れして、更生意欲を見失つたと認めざるを得ない状態に陥り、その行動態様及び生活態度は少年院送致前とほとんど同様と評するほかはない。

また、少年の母も少年の行動に困惑し、その監護に自信を失つており、母の親族もかねて別居中の少年の父の借金の保証等から少年らに背を向け、他に活用すべき社会資源もない現状において、このまま推移すれば更に遵守事項違反を繰り返すおそれが必至と見られ、もはや社会内処遇をもつて少年を改善更生に導くことは困難と思料せざるを得ない。

よつて、この際少年を少年院に戻して更に矯正教育を施して、その自覚を促すことを相当と認めるものである。

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